仙台高等裁判所 昭和32年(ナ)135号 判決 1958年5月29日
控訴人(原告) 南部直久
被控訴人(被告) 青森県知事
原審 青森地方昭和二七年(行)第三四号
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴人は、「原判決を取消す。被控訴人が昭和二七年七月八日付で控訴人所有の原判決別紙目録記載の土地についてした未墾地買収更正処分はこれを取消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は、控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の事実上の主張、証拠の提出、援用及び認否は、控訴人が、(一)被控訴人が更正処分をした本件一番の四号の現地は一番の一四号であり、同一番の九号は一番の一五号、同一番の一〇号は一番の一六号であつて、いずれも原買収処分の対象地とは別個の土地である。被控訴人は、更正処分に名をかりて右三筆の土地について新たな買収処分をしたものであり、しかも、右三筆の土地についての買収はいずれも一部買収であるにもかかわらず買収地と非買収地との境界を確定しなかつた違法があるから、本件更正処分は取消を免れない。(二)本件一番の九号の土地は控訴人訴外鳥谷利吉、鳥谷福蔵及び板橋彦呂久の共有で、控訴人の持分はその四分の一に過ぎないにもかかわらず、本件更正処分はこれを控訴人の単独所有としてした違法があるから取消を免れない。と述べた。
(立証省略)
被控訴人が、(一)本件買収令書更正書は昭和一七年八月八日の分筆による地番にもとづいて作成されたものである。そして、更正された一番の四号、九号及び一〇号の各土地の買収はいずれも一部についてされたものであつたから、それぞれ買収地と非買収地とを区分し、前記一番の四号は一番の四号山林四町四反一〇歩と一番の一四号山林五反五畝歩とに、同一番の九号は一番の九号山林三町九反一五歩と一番の一五号山林五町一反六畝一〇歩とに同一番の一〇号は一番の一〇号山林四反二畝一六歩と一番の一六号山林六反六畝二〇歩とに分筆したのであつて、買収令書更正書と原買収処分との対象地は全く同一であり、前記各買収地と非買収地との境界は確定している。(二)本件一番の九号の土地の買収については昭和二六年六月二八日買収計画を樹立して同月三〇日に公告し同年七月三日から同月二三日までこれを縦覧に供したのであるが、当時右土地は控訴人の単独所有であつたから、これをその様に認めてした本件買収処分は当然であり、これが地番の誤りを訂正したに過ぎない本件買収令書更正書がこれを控訴人の単独所有としてしたのも当然である。なお自作農創設特別措置法第三四条、第一一条によると、同法第三〇条による買収については土地所有の承継人に対してもその効力を有すると規定されていたから、前記土地についての本件買収は、昭和二七年一月一四日に控訴人から同土地所有権の四分の三の持分権の譲渡を受けたとして登記を経由した鳥谷利吉、鳥谷福蔵及び板橋彦呂久に対してもその効力を有する。(三)被控訴人は自作農創設特別措置法施行規則第四条第二項にもとづき昭和二七年二月二五日控訴人に対し本件訴願裁決書謄本を適法に送達した。仮に右送達につき原処分行政庁を経由しなかつたことが、訴願法第一五条に違反するとしても、右は単なる手続上のかしに過ぎないからこれをもつて右送達を不適法とすることはできないし、既に原買収処分が確定している今日、これをとらえて本件更正処分取消の事由とすることは許されない。と述べた。(立証省略)原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。
理由
一、当裁判所は、次の説明を附加するほか原審と事実の確定及び法律判断を同じくするから、原判決理由の記載(ただし原判決五枚目表七行目及び八行目に「六反六畝一〇歩」とあるのは「六反六畝二〇歩」の誤記と認める。)を引用する。
二、控訴人は、本件更正処分の対象地たる一番の四号の現地は一番の一四号であり、同一番の九号は一番の一五号、同一番の一〇号は一番の一六号であつて、いずれも原買収処分の対象地とは別個の土地である。被控訴人は、更正処分に名をかりて右三筆の土地について新たな買収処分をしたものであると主張する。
なるほど成立に争のない甲第一号証と乙第一号証とを対照すると本件買収令書更正書に記載された一番の四号の土地は現在一番の一四号の土地であり、同一番の九号は一番の一五号、同一番の一〇号は一番の一六号であることを認めることができるけれども、成立に争のない乙第三号証の一ないし六によると、元一番の四号山林一七町七反六畝二四歩は昭和一七年八月八日一番の四号山林四町九反五畝一〇歩、同八号山林二町四反三畝二八歩、同九号山林九町六畝二五歩、同一〇号山林一町九畝六歩、及び同一一号山林二反一畝一五歩に分筆されたことが認められ、成立に争のない甲第二号証の二ないし七、乙第四号証の一、二、三、五、六、七によると、昭和二七年七月二日、右一番の四号山林四町九反五畝一〇歩は一番の四号山林四町四反一〇歩と同一四号山林五反五畝とに、前記一番の九号山林九町六畝二五歩は一番の九号山林三町九反一五歩と同一五号山林五町一反六畝一〇歩とに、前記一番の一〇号山林一町九畝六歩は一番の一〇号山林四反二畝一六歩と同一六号山林六反六畝二〇歩とにそれぞれ分筆されたことが認められ、以上の各証拠に原審証人福井俊夫の証言(第一回)及び弁論の全趣旨を総合すると、本件買収令書更正書に記載された一番の四、九、一〇号の各土地はいずれも前記昭和一七年八月八日の分筆による旧地番によつたものであつて前記昭和二七年七月二日の分筆による現地番によつたものではないこと、及び右更正書に記載された土地と原買収処分の対象たる土地とは全く同一であることを認めることができ、これを左右すべき証拠がないから、控訴人の主張は理由がない。
三、控訴人は、本件買収処分したがつて更正処分は一番の四、九、一〇号の各土地についていずれもその一部を買収したに過ぎないにもかかわらず、その買収地と非買収地との境界を確定しない違法があると主張する。
しかしながら前記乙第一号証、成立に争のない乙第二号証の三、原審証人福井俊夫の証言(第一回)に弁論の全趣旨を総合すれば右土地の買収地と非買収地との境界はこれを明らかに確定して本件買収処分をしたことが認められ、これを覆えすべき証拠がないから、進んで判断を加えるまでもなく控訴人の主張は理由がない。
四、控訴人は、本件一番の九号の土地は控訴人と鳥谷利吉、鳥谷福蔵、及び板橋彦呂久の共有であり控訴人の持分は四分の一に過ぎないにもかかわらず、本件更正処分はこれを控訴人の単独所有としてした違法があると主張する。
なるほど成立に争のない甲第三号証によると、右一番の九号の土地は昭和二七年一月一三日その持分権の四分の三が控訴人から鳥谷利吉、鳥谷福蔵及び板橋彦呂久の三名に譲渡され控訴人の持分はその四分の一となつていたことが推認されるから、その後の同年七月八日に作成された本件買収令書更正書が同土地を控訴人の単独所有としたのは、その所有者を誤つたものであること明らかである。
しかしながら、右の更正は先にされた右土地などに対する買収処分の単なる地番の誤りの訂正に過ぎないものであつてそれ自体独立の行政処分でないことは既に認定したとおりであるから、右の違法を理由として本件買収令書更正処分の取消を訴求し得ないものと考える。
五、被控訴人が控訴人に対し控訴人がした本件買収計画に対する訴願裁決書謄本を原処分行政庁を経由しないで送達したことは当事者間に争がないから、右の送達は訴願法第一五条に違反するものであることは明らかである。しかしながら同法条は原処分行政庁に訴願に対する裁決内容を知らしめようとの配慮に出たものであつて、これに違反する送達を無効としなお進んで訴願がなお訴願庁に係属しているものとするが如き効果をあらしめようとするものではない。それゆえ訴願がなお被控訴人に係属しているにもかかわらず本件更正処分をしたのは違法であるとの控訴人の主張はその余の判断をするまでもなく理由がない。
六、そうすると控訴人の本件訴はこれを不適法として却下すべく、これと同旨の原判決は相当であつて本件控訴は理由がないからこれを棄却すべく、民事訴訟法第三八四条、第八九条、第九五条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 斎藤規矩三 鳥羽久五郎 羽染徳次)